2008年5月15日木曜日

密談

 車から降りると、取引相手もベンツから降りてきた。
 お互いに警戒しあいながら、相手なのだと確認しあう。

「誰にも見られたり、後をつけられなかっただろうな?」
「大丈夫だ。女房にすら気取られていない。」
「例のもの、持ってきたか?」
「勿論だ。そっちは? ちゃんとキャッシュも持ってきたんだろうな?」
「当然だ。金がなくちゃ、話にもならん」
「では、おまえの物を見せろ」
「いや、そっちが先だ」
「では・・・3で一緒に出そう。1・・・2・・・3!」

 二人は紙切れを互いの目の前に差し出した。

「ううう・・・ちょっと高いんじゃないのか?」
「これが現行の相場だ。仕方がないじゃないか、アメリカとの取引はまだ停止中なんだ。そちらこそ、ちょっと法外じゃないのか? 中国産で誤魔化すつもりじゃないだろうな?」
「馬鹿言え、これは正真正銘、丹波産だ」
「では、ブツを渡そう。そっちとの差額代金も払う」
「いいとも、これで助かった。品切れでにっちもさっちも行かなかったからな」

 二人の男は包みを交換した。

 丹波産松茸と近江和牛ロース肉である。

1ドルの輝き

 惑星ヤバンは大昔、惑星サーンの流刑地だった星で、カムンは流刑囚だった人々の子孫が原住民化した民族だ。ヤバンの自然は砂漠で生存が大変難しい土地なので、カムンは長い年月の間に、少しばかり進化していた。と言っても、そんなに目立たなかったけれど。
 最近サーンから移住した人々の人口比率がヤバンの全人口の9割を越えたので、今やカムンは少数民族で、なかなか会えない。
 だけど、俺は宇宙港でドックの清掃員をしているカムンと友達になった。
 カムンを信用するな、とサーン人たちは忠告してくれたけど、リビってカムンは気のいいヤツだった。確かに、時々カムンの”超能力”とやらで、狡いことはしたけど。
 
 ある日、俺はリビとちょっとゲームをして遊んだ。まぁ、率直に言えば、博打をしたんだけどね。それで、リビが勝つはずのない勝負で勝った。何かやったんだろうけど、見抜けなかった。それに大した賭けじゃなかったから。
 俺は負けたから、リビを連れて飲みに行った。リビは大人しく飲んでいた・・・と思ったら、いつの間にやらかなり飲んでいた。
 で、支払いの段になって、俺は財布がないことに気付いた。落としたか、摺られたか・・・。青くなった俺にリビが言った。
「摺られたのなら、摺られた瞬間に俺が気付いたよ。きっと落としたんだ」
 サーン人なら、彼を疑っただろうが、俺は彼の人柄を信じていたので、探しに行くことにした。店の人は俺の操縦士免許を質に取って、「今夜中に払え」と言った。
 
 俺たちはドックまで来た道を辿った。ドックは真っ暗だった。
「落としたのなら、もうここしか探す場所は残ってないなぁ」
「だけど、真っ暗だし、広いし・・・」
俺はもうべそをかいていた。免許がなけりゃ、明日から飯の食い上げだ。すると、リビがこんなことを訊いてきた。
「コイン持ってる? 金属のお金」
 クレジットの時代だけど、惑星ヤバンでは、まだ古代貨幣が流通していて、俺も着陸した時に少しばかり換金して持っていた。だけど、こんな時にコインなんてどうするんだ?俺は1セント硬貨を出した。リビは、「1セントか・・・」と呟いて、それを両手で揉み、ドックに投げ入れた。
 パァっと光がドックの内部を照らし、一瞬、俺の財布が床に見えた。
 アッという間に光は消えて暗闇。俺は驚いて尋ねた。
「今のは?」
 リビが、やや皮肉っぽく答えた。
「1セントの光だよ。安いからすぐ消えた」
 俺はポケットを探って、1ドルコインを見つけた。
「これ、投げて!財布の位置を確認出来るくらいの灯りが出来るだろ?」
「まぁね」
 リビは、1ドル硬貨を揉み、投げた。

 俺は無事財布を取り戻し、飲み屋に支払いをした。1セントと1ドルは、どうやらリビが後で拾って自分のポケットに入れたらしいが、俺は何も言わないでおこう。

2008年5月13日火曜日

「いいかな?」

 学生時代の旅の思い出と言うなら、私にも少しばかり・・・。

 妹がY県の大学に入ったので、夏休みに遊びに行った。あちらで妹と合流して、少し遊んで一緒に帰ると言うプラン。
 初日は妹が住んでいた大学の寮に泊めて貰った。国立大学の学生だったら学生証を見せるだけで、全国どこの国立大学でも寮に泊めてもらえるシステムだった。(勿論、異性の寮はいけません。)
素泊まりで、ただ寝るだけ。夏休みなので職員はいなくて学生だけだった。

 夕食は、妹が選んだレストランに行った。多分、妹はずっと以前からそこに目をつけていて、金蔓が来るのを待っていたに違いない。(笑
 ドアの前に立った時、彼女は私の顔色を窺うように声をかけた。

「ここで、いいかな?」

 料理は、フレンチっぽい洋食。フレンチと断言出来ないのは、つまり・・・なんとなく「和」が入ってると言うか、田舎の人が「フレンチって、きっとこんなんだろう」と考えて作った様な、そんな野暮ったいところがある料理だったから。
 だけど、美味しかった。 妹は大好物のローストチキンがクリームスープにどっぷり浸かった不思議な料理を満足そうに食べていた。
 う〜ん、やっぱり、こんな牛乳味の豚汁みたいなもの、フレンチじゃないぞ。
 それでも、うん、美味しかったから、文句は言わないでおこう。

 寮まで歩いて帰る時、妹がまた言った。
「ケーキ買っていいかな?」
 勿論、私の財布から・・・と言う意味。(笑
 ケーキは、「これがケーキ屋さん?」と思えるほど、普通の家っぽい店で売られていた。

 Y県は、神戸っ子には、カルチャーショック連続の土地だった。
 
 ・・・と書いても、いいかな?(笑

嗤う遺伝子

 優れた遺伝子が発見された。 それは銀河系の辺境の惑星でのことだ。
 住人は、かつて地球から移民した人々の子孫。
 この星は公転周期が長くて、夏が20地球年、冬が40地球年。 余りに厳しい冬の為に植民政策が断念され、取り残された移民たちが、生き延びる為に自分たちの遺伝子を改造したのだ。
 紙やメモリー装置が限られていたために、彼等は自分たちの研究、発見、発明、歴史の全ての記録を遺伝子に刻んだ。
 即ち、この星の住人は全て生まれながらにして親の記憶を持っているのだ。
 彼等を再発見した人々は考えた。
「個人的な記憶は必要ない。しかし科学技術の記憶を生まれながらに持つことは、学習時間の節約になるではないか!」と。
 遺伝子を改造した記憶を参考にして、共同で研究が進められ、全人類の遺伝子に「学習節約遺伝情報」が組み込まれることになった。
 きっと、時間が有効に余ったら、人類は更に発展するだろう。
 誰もが期待した。

 しかし、一つだけ、忘れられていた遺伝情報があった。忘れられていたので、誰も思い出さなかった。
 それは・・・

「再び同胞と再会し、人類のオリジナルの遺伝子と接触したら(つまり婚姻によって子供ができたら)、この情報伝達遺伝子は役目を終わり、自動消滅すべし」

 全人類の遺伝子に無理矢理組み込まれた、この情報は・・・。

未完の大作

 アイデアが湧き出るままに、創作に取りかかることがよくある。
 後から後から構想が沸いてきて、自分ではどうしようもなく、どんどん手が進む。
 かなり大量に出来上がったところで、突然、アイデアが涸れる。 どうしようもない、どんなに考えても、それ以上は何も出てこない。
 また、この作品は没なのか。
 完成されることもなく、世間に未発表のまま、朽ちていくだけなのだな・・・。




「ちょっと、誰よ、蜜柑で彫刻なんてしたのは??
 腐りかけているじゃない、さっさと棄てなさい!!!」

貧乏旅行?

 これは実話。

 Kさんは高校時代、休みになると友人二人と一緒にいつもバイクでツーリングを楽しんでいた。
 資金はアルバイトで稼ぎ、宿は出来るだけ安い場所、寝袋で眠れたら良し、として贅沢厳禁の質素な旅だった。
 一度などは、台風が近づいてきて、野宿が危険と思われたので屋根のある場所を求めて駐在所に行ったこともある。その時は、近くの学校の宿直に紹介され、学校で泊めてもらった。
 質実剛健、悪く言えば、貧乏旅行だった。

 ある時、それは東海地方の街の出来事だった。
 駅前にバイクを停めたKさんたちは、食事を摂ることにした。けれど、付近の飲食店に駐車場を持っていそうな店が見あたらなかったので、Kさんは、友人二人に先に食事を摂らせ、自分はその間バイクと荷物の番をすることにした。
 一人で地面に座っていると、ホームレスの小父さんが通りかかった。
「坊主、何してるんだ?」
「バイクの番してるんや」
 小父さんは3台のバイクを見た。
「友達は何処かへ行ってるのか?」
「うん、飯食いに行った」
「おまえは何で食べに行かないんだ?」
 そこで、Kさんの心に茶目っ気が生じた。
「僕は、金ないんや。だから、食べたくても食べられへんねん」
「友達は金持ってて、飯食べてるのか?」
「そうや」
「それは酷いなぁ」
 ホームレスの小父さんは服のポケットをがさごそと探って、百円玉を数枚出した。
「おっちゃんが金出してやるから、これでラーメンでも食ってこいや」
「え?!」
Kさんは驚いた。ホームレスの小父さんは、どう見てもKさんより裕福に見えない。失礼ながら、毎日食べる物を確保するのに苦労されている様に見えた。
 それなのに・・・。
「せやけど、おっちゃん・・・」
「早く行ってこい。バイクと荷物は儂が見張っててやるから。友達に見つかる前に戻って来いよ」
 断ると却って失礼な雰囲気だった。Kさんは小父さんからお金をもらい、近くのラーメン店に駆け込んだ。
 美味しいラーメンでお腹がふくれたKさんが駅前広場に戻ると、ホームレスの小父さんはまだそこにいて、Kさんを見てニコニコ笑った。
「どうだ、上手かったか?」
「うん、美味しかった。ご馳走様」
「おまえ、関西から来たのか?」
「うん。これから帰るとこ」
「気をつけて帰れよ。そうだ・・・」
 小父さんはまたポケットを探り、また小銭を出した。
「少ないけど、小遣いやろう」
「え?!」
「いいから、儂もたまには、若い者にこう言うこと、してみたいんだ」
 小父さんはKさんの手にお金を握らせ、「んじゃ、元気でな」と言って歩き去った。
 友達が戻って来た時、Kさんはご機嫌だった。
「何かあったんか?」
「別にぃ・・・」
「飯食ってこいや」
「ええねん、腹一杯やから」
「さっきは腹減った、て言うてたやんか」
「せやから、もうええねん」

 Kさんは今でも時々考える。

 あの小父さんにも息子がいたのかな・・・
 あの小父さんも旅をしていたのかな・・・

遺産

父の遺産相続の為に姉妹が集まった。
 長女の桃子。父と性格が似て頑固なので、父の晩年は対立して電話すらしなかった。勿論、父が病に倒れてからも見舞いにも来なかった。
 次女の梨花。体が弱く、それを理由に近所に住んでいるにもかかわらず、一度も父の看病の手伝いに来なかった。今も神経性の胃炎で悩んでいると愚痴をこぼしている。
 三女の栗子。海外赴任の夫と共に帰国したのは、父の49日の直前、つまり昨日。葬式に間に合わなかったのは許すとして、どうして遺産がもらえるかも知れない時に帰ってくるの? もっと早く帰って来られたでしょ?
 四女の杏。一番父に可愛がられていたので、自信満々の表情だけど、ダンナの会社は火の車。内心はきっと穏やかじゃないわね。全額もらえる訳はないしね。
 五女は、花梨、つまり、私。末っ子だけど、家に残って一人で父の世話をした。葬式の手配もしたし、桃子姉に言われて喪主も務めた。これでみんなと同額じゃ、割に合わないわ。

 弁護士が封筒を開封するのを、全員が固唾を飲んで見守った。
 白い便箋を手にして、弁護士が読み上げた。

「娘たちの健康で豊かな人生を願って、ここに全ての遺産を以下の者に贈ることにする。

 次女 梨花」


 そんな馬鹿な!!

 私たち姉妹の叫びを無視して、弁護士は次女梨花に小さな手提げ金庫を渡した。株券とか土地の権利書なら十分入る大きさだ。
 梨花は得意満面で、金庫を開いた。彼女の顔色が変わった。

「何よ! これは?!」

 梨花姉がテーブルの上に投げ出した金庫を覗いて、私たちは唖然とした。
 そこには、金色に光る粉が入ったガラス瓶と一通の覚え書き・・・

 毎食後半時間以内に必ず服用のこと



 胃散だった。