これは実話。
Kさんは高校時代、休みになると友人二人と一緒にいつもバイクでツーリングを楽しんでいた。
資金はアルバイトで稼ぎ、宿は出来るだけ安い場所、寝袋で眠れたら良し、として贅沢厳禁の質素な旅だった。
一度などは、台風が近づいてきて、野宿が危険と思われたので屋根のある場所を求めて駐在所に行ったこともある。その時は、近くの学校の宿直に紹介され、学校で泊めてもらった。
質実剛健、悪く言えば、貧乏旅行だった。
ある時、それは東海地方の街の出来事だった。
駅前にバイクを停めたKさんたちは、食事を摂ることにした。けれど、付近の飲食店に駐車場を持っていそうな店が見あたらなかったので、Kさんは、友人二人に先に食事を摂らせ、自分はその間バイクと荷物の番をすることにした。
一人で地面に座っていると、ホームレスの小父さんが通りかかった。
「坊主、何してるんだ?」
「バイクの番してるんや」
小父さんは3台のバイクを見た。
「友達は何処かへ行ってるのか?」
「うん、飯食いに行った」
「おまえは何で食べに行かないんだ?」
そこで、Kさんの心に茶目っ気が生じた。
「僕は、金ないんや。だから、食べたくても食べられへんねん」
「友達は金持ってて、飯食べてるのか?」
「そうや」
「それは酷いなぁ」
ホームレスの小父さんは服のポケットをがさごそと探って、百円玉を数枚出した。
「おっちゃんが金出してやるから、これでラーメンでも食ってこいや」
「え?!」
Kさんは驚いた。ホームレスの小父さんは、どう見てもKさんより裕福に見えない。失礼ながら、毎日食べる物を確保するのに苦労されている様に見えた。
それなのに・・・。
「せやけど、おっちゃん・・・」
「早く行ってこい。バイクと荷物は儂が見張っててやるから。友達に見つかる前に戻って来いよ」
断ると却って失礼な雰囲気だった。Kさんは小父さんからお金をもらい、近くのラーメン店に駆け込んだ。
美味しいラーメンでお腹がふくれたKさんが駅前広場に戻ると、ホームレスの小父さんはまだそこにいて、Kさんを見てニコニコ笑った。
「どうだ、上手かったか?」
「うん、美味しかった。ご馳走様」
「おまえ、関西から来たのか?」
「うん。これから帰るとこ」
「気をつけて帰れよ。そうだ・・・」
小父さんはまたポケットを探り、また小銭を出した。
「少ないけど、小遣いやろう」
「え?!」
「いいから、儂もたまには、若い者にこう言うこと、してみたいんだ」
小父さんはKさんの手にお金を握らせ、「んじゃ、元気でな」と言って歩き去った。
友達が戻って来た時、Kさんはご機嫌だった。
「何かあったんか?」
「別にぃ・・・」
「飯食ってこいや」
「ええねん、腹一杯やから」
「さっきは腹減った、て言うてたやんか」
「せやから、もうええねん」
Kさんは今でも時々考える。
あの小父さんにも息子がいたのかな・・・
あの小父さんも旅をしていたのかな・・・
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