「ここに、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家があったんだって」
彼女が示した場所は草ぼうぼうの空き地だった。緑色の金網を張ったフェンスが取り囲んで置かれていた。西隣のタバコ屋は新しい建物だ。東隣は駐車場。北側は、これも新しいマンション。南が空き地なので、きっと日当たり良好だろう。マンションの両側がちらりと見えたが、駐車場と更地だった。やはり、元通りの街並みには戻っていないんだ。
「3軒続きの長屋みたいな家でね、お祖父ちゃんお祖母ちゃんは真ん中に住んでたんだ。ちっちゃな庭付きの小綺麗な町屋だったよ。こじんまりした門があって、敷石を二枚歩くと引き戸の玄関があったの。玄関上がると短い廊下でさ、お座敷二間だけの家。それでも広い方に床の間があって、仏間もあったの。押入もちゃんとあったよ。狭い方のお部屋はお祖母ちゃんの仕事場ね。和裁をしてて、頼まれ物の着物を手で縫ってたの。
台所は反対側、どっちの部屋からも直接行けるのよ。板間で薄暗かったけど、そこでお祖母ちゃん、いつもコトコトお芋やカボチャを煮込んでいたわ。
台所の横にお風呂があったけど、お祖母ちゃんはそこは洗濯場にして、お風呂は街のお風呂屋さんに行ってた。風呂桶が壊れて、修理するよりお風呂屋さんに行ってお友達と会うのが楽しかったんでしょうね、きっと。
トイレは庭の所に突き出た形であったわ。廊下の突き当たりがLの字に曲がってたの。昔のぼっちょんトイレね。手洗いは、庭に手水石があって、そこの上に水を入れた提灯みたいなのを吊して手を洗うのよ。え? 見たことがない?そうでしょうね。
庭は楓や竹が植わってて、根本の岩の上に蛙の焼き物が載ってた。お祖父ちゃんは、私が欲しがってもくれなかったけど。」
彼女はフェンスの足元に花束を置いた。
「どうして、ここが更地になったかって?
あの地震を覚えているでしょう?ここはあの時の激震地だったの。この辺、全部崩れて焼けたのよ。
うちのお祖父ちゃんとお祖母ちゃん?
ああ・・・地震の時はもう引っ越して私の家の隣に住んでたわ。だから、あの時ここに誰が住んでたのか、知らない。」
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