ピンポンパンポ〜ン♪
「ご来店中のお客様にお願い申し上げます。大泉純一郎ちゃんとおっしゃる3歳の男の子が迷子になっておられます。純一郎ちゃんは黄色いTシャツにグリーンの半ズボン、Tシャツには猫の模様が・・・」
店内放送を耳にした咲子は、ふと胸騒ぎを覚えた。その格好の子供だったらさっき見かけたような・・・。素早く周囲に目をやってみたが見あたらなかった。スーパーマーケットとは言え、この地方都市ではデパート並の規模を誇る大型店舗だ。客数は市内一だし、土日には必ず二人や三人、迷子が出る。今日は平日で空いていると言っても、子供にすれば自動車の心配が要らない広い遊び場だ。親が買い物をしている隙に走り回ってはぐれてしまったのだろう。
でも、この胸騒ぎはなに?
咲子が不安に襲われた時、咳払いが聞こえた。彼女は我に返った。彼女はレジ打ちの最中だったのだ。慌てて仕事に気持ちを切り替えた。
客に釣り銭を手渡した時、視野の隅に黄色いTシャツが見えた。
「あら?」
3歳くらいの男の子が男性に手を引かれて出口の方へ歩いて行くところだった。グリーンの半ズボン・・・。
あれは父親かしら? でも、放送では「お母様が待っておられます」と言っていた。平日の昼間に家族で買い物? では、母親は?
イヤな気分が押し寄せてきた。どうしよう・・・追いかけて声をかけるべきか? それとも・・・。持ち場を無断で離れられないし、子供はもう外に出かけている。
その時、商品管理係のユウナさんがバスケットを片づけにやってきた。咲子は急いで声をかけた。
「ユウナさん、あれ、あの子・・・」
ユウナさんは咲子が指さした方向を見た。そして、咲子が言いたいことを瞬時に理解したみたいだった。
「迷子ちゃんね。」
ユウナさんは一言そう言って、男の子と男性の後を追いかけて走っていった。
「咲子さんが見つけたんですよ。」
とユウナさんは店長に言った。
「子供と男の人が不自然だって思ったんですって。でもレジから離れられないでしょう? だから、私、頼まれて確認に行ったんです。声をかけたら、男の人、慌てちゃって、子供を家に届けるところだったとか言い訳して走って逃げてしまいました。危なかったです、最近誘拐が多いですからね。咲子さんが気づかなかったら、大変なことになったかも知れません。」
咲子は気恥ずかしくて赤くなって黙っていた。ユウナさんは頼まれて行動したんじゃない。ユウナさんもおかしいと気づいたんだ。だから、お手柄はユウナさんで、私じゃない・・・。
ユウナさんと目が合った時、ニコッと笑ったので、咲子は何も言えなくなってしまった。
「だって、本当に咲子さんが先に気づいたんだもの。」
とユウナさんは言った。
数日後、咲子は店の外を掃除していて、ユウナさんが知らない男と駐車場の端で向き合っているのを見つけた。何をしているのだろう、と不安になって近づくと、ユウナさんが男の顔の前に手をかざして声を出した。
「忘れるのよ。病気だったんだから。もう二度とあんなことはしないはず。」
男は頷いてくるりと回れ右すると駐車場から出て行った。
咲子はなんだかわからなくて、ユウナさんに声をかけた。
「何していたの?」
ユウナさんはちらっと咲子を見て答えた。
「ちょっとね。」
「知り合い?」
「そうでもないけど。もう会わないだろうし。」
時計を見て、ユウナさんはお弁当の時間だ、と言ってお店に戻って行った。
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