部屋の隅に正座して、ずっと壁を見つめて座っていた。和服姿の女性だ。
壁に何かあるのかと思ったが、薄っぺらだから死体が埋め込まれているように見えなかったし、穴も開いていたし、金目の物とか古文書が入っているようにも思えなかった。だって、去年建てたばかりのプレハブの事務所だからね。
最初のうちはみんな気味悪がっていたけど、そのうち慣れて、「うちの事務所には幽霊がいるんですよ」なんて誰かが宣伝したものだから、見物人は来るし、テレビも取材に来た。
幽霊は動じなくて、誰が話しかけても振り返らなくて、ずっと壁を見ていた。
物珍しさから客は増え続け、顧客もできた。
小さな解体専門の会社が、どんどん売上が伸びて行ったんだ。
そのうち、近所のお屋敷が代替わりしたので、新しい場所に引っ越して跡地を更地にしたいと言ってきた。
こんなちっぽけな解体屋が初めて請け負う大仕事だ。みんな張り切って機材を手配して築200年の大きな商家を解体した。
そして、出てきたんだ。奥座敷の壁の中から骸骨が・・・。
警察の話では、とても古い骨で、依頼主にも心当たりはなくて、でもご先祖の使用人に行方不明になった人がいたとかで・・・。
今となっては犯罪だったのかな、て言う程度か。物好きな人が歴史を調べるだろうな。
あ、幽霊は、骸骨が出た夜、初めて立ち上がり、僕らの方を振り返って深々とお辞儀して消えたんだ。
綺麗な娘さんだった。
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