2011年1月1日土曜日

サンドールの野を愛す・ライナス

アメリカ全土が不況で喘いでいた時代。サンドールの集会所の入り口で捨て子が見つかった。生まれて一月足らずの男の子。警察は親を捜したが、見つからな かった。サンドールは小さな町だから、子供がいなくなれば、すぐ近所の人が気付くだろう。これはきっと近隣の町か村の人間が夜中にやって来て棄てていった に違いない。寒くないように毛布でくるまれていたから、親は子供が死ぬことを望んでおらず、どこかの親切な人に拾われることを期待したのだろう。仕方がな いので、警察は子供を隣町の孤児院に預けることに決めた。すると、子供を最初に発見した人物が、自分が育てようと申し出た。サンドールの住人は驚いた。彼 が孤児を養うなんて予想していなかったから。でも、彼は言った、「この子の親は、子供がサンドールで生きていくことを選択したんだ」
ライナスと名付けられた赤ん坊は、こうしてトワニの小屋で育てられた。トワニはその日暮らしだったけれど、子供の養育費には困らなかった。サンドールの 住人たちが、子供に必要な食べ物や身の回りの物を分けてくれたからだ。サンドールの住人たちは、自分たちも不況で喘いでいた。それぞれの家庭は、子供が一 人増えるのは辛いが、余所の家の子供に少し分け与える余裕くらいはあった訳だ。その「余所の家」がトワニの家なら、なおさらだった。
ライナスは町中の人々によって育てられ、成長して、当時の若者がそうだった様に徴兵されて戦争にも行き、無事に退役して町に戻って来るとジョーンズ牧場 で働き始めた。牧場主が彼を気に入って娘と結婚させ、彼はライナス・ジョーンズと言う名前になり、その後も真面目に働き、子供が出来て、牧場は町で一番大 きな牧場となり、彼は町の名士に数えられるようになった。

「5人目の曾孫が生まれたんだよ、親父」
と、ライナスは、一番年長の曾孫と変わらない外観の若さを保つトワニに報告した。二人は馬に乗って牧場を見下ろせる丘の上にいた。
「どっちだい?」
「男。息子、孫に曾孫、全部男だ。」
「ジョーンズ家は代々女系だったが、おまえが入り婿してから逆転したな。」
「まだ3代しかたっていないよ。」
「いや、4代さ。おまえから数えるんだ。」
「俺は余所者の子だ」
「違うね」
トワニは断言した。
「おまえの親は、この町の住人がおまえを育てると知っていたんだ。」
「住人が俺を育ててくれたのは、俺が親父に引き取られたからだろ?」
「それを予想出来たと言うことは、おまえの親が俺の存在を知っていたと言うことだ。つまり、おまえの親は、サンドールで生まれ育って外へ出ていった人間だ。」
「親父は俺の本当の親が誰だか知ってるのか?」
「知らない。もし知っていたら、おまえは知りたいのか?」
ライナスは草原の果てに視線を向けた。
「いや。俺の親は親父一人だけだから。」
「だったら・・・」
トワニは馬の首を軽く叩いた。馬が草を噛むのを止めて、次の指示を待つように顔を上げた。
「おまえは余所者じゃないさ、ライナス。80にもなって、そんなことも知らなかったのか?、坊や」
トワニの馬が腹を蹴られて走り出した。やれやれ、とライナスは首を振った。いつまでたっても子供扱いするんだから・・・。彼も馬の腹を蹴ってトワニを追いかけた。
「そんなに飛ばすんじゃないぞ、親父、あんたも歳なんだから!」

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